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ヤマトの章 15 前世の記憶に翻弄される 3

last update 最終更新日: 2025-06-06 14:32:18

「ねえ、渚君。無理しないで、少しここで休んでいこうよ?」

渚の声で僕は現実に引き戻された。顔を上げると、千尋が心配そうに見つめている。ここにいる? それは無理だ。ここにいるのはもう限界だった。

「嫌だ……。この場所から離れたい……」

こんな場所にいつまでもいたら、頭がおかしくなりそうだ。波の音と潮風があの時の記憶を呼び覚まし、酷い頭痛と眩暈がする。

千尋は海から離れるまで僕を支えてくれた。

ごめん……千尋。迷惑かけて。

たまたま近くにあったファストフード店に二人で入ることにした。大分具合は良くなってきたけど、まだ酷い眩暈がする。

「ごめん……ね……千尋。折角二人で楽しもうと思ってたのに」

無理して笑顔で言ったけど千尋は心配そうに僕を見ている。千尋が何か言いかけたけど、途中でやめてしまった。

何を言いたかったのかな? 情けない男だと思われたかもしれない。具合が悪い僕を気遣ってか、千尋は帰ろうと言い出した。確かに今日の僕は体調が悪くて限界かもしれない。

明日から僕も千尋も仕事だから帰ることに決めた。

****

 夜は二人で海鮮鍋を作った。

並んで台所に立つと何だか新婚夫婦みたいだ。自然と気持ちが弾んで鼻歌が出てしまった。千尋もニコニコしている。

良かった、今日僕のせいで千尋に気まずい思いをさせてしまったからね。

鍋をストーブにかけると、二人で交代でお風呂に入った。たまにはこういうのもありかもね。

お風呂から上がると二人で日本酒を飲みながら鍋料理を食べた。

千尋の用意した日本酒はすごく美味しくて、いつになく饒舌に日本酒について語っている。

「ははは……。千尋は本当にお酒が好きなんだね。でも明日から仕事なんだからあまりお酒飲み過ぎない方がいいよ?」

すると、千尋はこの先いつでも飲めるからと言ってくれた。その言葉はとても嬉しかったけど、僕の心に暗い影を落とす。

「この先いつでも……か」

小声で言ったつもりが千尋の耳にも届いていたらしい。千尋は僕の言葉を聞いて不安そうにしている。ごめん、こんなこと本当は言うつもりじゃ無かったのに……。

僕が後片付けをしようとしたけど、何故か今夜の千尋は頑として譲らなかった。

「今日海で具合が悪くなったでしょう? 私がやるから大丈夫だってば」

そう言われてしまえば、僕は返す言葉も無い。だから厚意に甘えて僕は先に休ませてもらうことにした――

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    「渚君!」気が付けば眼前に千尋の顔があった。心配そうに僕を覗き込んでいる。咲……!僕は彼女をきつく抱きしめた。「嫌だ……海の中は……息が出来なくて寒くて怖い……。助けて……」身体の震えが止まらない。まるで夢と現実の境目にいるみたいだ。「大丈夫、渚君……私が側にいるから、もう怖い思いさせないから……」千尋のぬくもりが徐々に僕を現実へと引き戻す。「本当に……? 本当にもう大丈夫なの?」それでもまだ僕の恐怖は拭えない。「うん、大丈夫。私が渚君が眠るまで側にいるから」千尋の声は僕を安心させてくれる。どうか、今夜だけは僕が眠りに着くまでは側に……。 翌朝、目が覚めた時僕には昨夜の記憶が全て残っていた。あんな子供みたいな振る舞いを千尋の前でしてしまうなんて、穴があったら入りたい。だから千尋に昨夜の事を覚えてるか聞かれたけど、何も覚えていないって思わず嘘をついてしまった。ごめんね、千尋。やっぱりもっともっと千尋と楽しい思い出を残しておきたい。だから千尋にお願いをしてしまった。二人で色々な場所へ遊びに行きたいって。千尋も頷いてくれた。断られなくて本当に良かったな。**** その後、僕と千尋は約束通り二人が休みの日は色々な場所へと出掛けた。動物園、映画、遊園地、ドライブ……僕が行きたかった全ての場所へ一緒に行った。ねえ、千尋。僕のこと、どう思ってくれている? 好意を持ってくれてるのかな?でもまだ拒絶されるのが怖くて僕には千尋の気持ちを尋ねる勇気が持てなかった―― この頃の僕は油断すると頻繁に身体が消えかける現象に悩まされていた。病院に入院している間宮渚の身体は今、どうなっているのだろう? かなり危険な行為かもしれないけど一度病院に行ってみようと心に決めた。 千尋には家電を買いに行くと嘘を言って僕は間宮渚が入院している病院に向かった。病院の案内図を見る。どこに入院しているかはすぐに把握出来た。顔を見られるとまずいので、僕は持ってきたサングラスをかけ、マフラーで口元を隠した。人目に付かないように彼が入院している病棟に入ることが出来た。廊下に誰もいないのを確認すると素早く502号室に入る。そしてゆっくりとベッドに近づいた。もし彼に近づいた瞬間目を覚ましたらどうしよう。恐怖で足が震える。けれど……彼はまるで死んだように眠っている。その姿を

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     3つの記憶を同時に持つと言う事は中々困難なことだと思う。 間宮渚の記憶は普段は記憶の奥底に閉じ込めておくことが出来る。大分この身体にも慣れてきたお陰か、必要な時だけ記憶を取り出せるようになっていた。でも僕を苦しめるのは前世の記憶。これは実際僕が過去において経験したことだから押し込めておくことなんて出来ない。咲と過ごした楽しい記憶もあるけれど、やはり生々しい戦の記憶は封じ込めておけない。夢の中で度々僕は過去の記憶の悪夢にさいなまされる。最近特に悪夢が増えてきたのは、やはりもうすぐ自分が消えてしまう恐怖からなのかもしれない……。 **** クリスマスも終わり、年が明けた。僕と千尋は穏やかな時を過ごしている。千尋と過ごせる時間も残りわずかなのはもう分かっている。だって、自分の身体が消える時間がどんどん増えて来てるんだから。今は消えるのは両手のみだけど、やがて徐々に他の部分も消えるのだろうと思うと頭がおかしくなりそうだった。だからなるべく考えないようにしている。千尋ともっと色々な思い出を作りたい、その思いを胸に僕は最後は潔くこの世から消える。そう、心に決めた。「ねえ、千尋。明日二人で一緒に出掛けない?」今日が休みの最終日。僕は思い切って千尋を誘ってみた。千尋は快く快諾してくれた。そこで僕は千尋を連れて以前から行ってみたいと思っていた水族館へ誘ってみた。そこは海のすぐそばにある水族館。きっと千尋も気に入ってくれるはずだ。 着いてみるとちょっとだけ驚いた。館内は若い男女のペアばかり。皆手を繋ぎあったり腕を組んで歩いてる。ここで僕たちが手を繋がないのは不自然かな?「手……繋ごうか?」僕が尋ねると千尋は黙って頷いた。手を差し出すと、千尋もおずおずと手を伸ばす。そこを指をからめとってしっかりと繋いだ。千尋は驚いたように僕を見たけど、恥ずかしいのでわざと横を向く。でも顔が赤くなってるのがばれてしまったみたいだ。そんな僕を見て千尋はクスリと笑うと、僕のつないだ手をギュッと握りしめた。驚いて千尋を見ると彼女は笑顔を向けてきた。「行こうか? 渚君」とーー 水族館は間宮渚の記憶にも無かった。彼は一度も水族館には来ていないのだろう。お陰で新鮮な気持ちで観る事が出来た。 水族館を出ると二人で海沿いのカフェでランチを取ることにした。会話の中で高校生の時、

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    —来週はクリスマスイブだ。最近身体の調子がおかしくなってきた。初めてその現象が起こったのは数日前。突然右手に激しい痛みが走り、手首から指先までかけて半透明に透き通り始めた。「!」それはほんの一瞬で、すぐに元に戻った。けれど僕は恐怖に震えた。ああ…とうとう始まったのだ。こうやって徐々に身体が消え、いずれ間宮渚と身体が一体化して僕の魂は消えていくのだろう。嫌だ、消えたくない。だって僕はまだ千尋に肝心なことを聞いていないのに。**** この日の夜。僕と千尋は里中さんと、先輩にあたる近藤という人と皆でラーメンを食べに行くことになった。近藤さんはとても気さくなタイプの人で、どうも千尋と里中さんの仲を取り持ってあげようと画策していたみたいだった。でも僕は反対出来ない。だってもうすぐ消えてしまう僕に、千尋を縛り付けることは出来ない。その後どういう話の流れか、里中さんも僕たちのクリスマスパーティーに参加することが決定していた。****——クリスマスイブランチを食べに来ていた近藤さんが突然僕に声をかけてきた。「間宮君、ちょっといいかな?」「はい、どうかしましたか?」「実は里中が高熱を出して寝込んでしまったんだ。悪いけど今日のパーティーは欠席させて欲しいと伝えてくれって言われたよ」「え? 里中さん、大丈夫なんですか?」「う~ん。あいつ一人暮らしだし、料理もしないから大変かもな。でもあいつには悪いけど余裕が無くて。今日はこっち、人手が足りないんだよ」近藤さんは随分困っているようだ。そこで僕は閃いた。「近藤さん、ちょっとだけ待っててもらえますか?」厨房に戻ると責任者の人に午後から半休を貰えないか聞いてみた。すぐに休みの許可を出してもらうことが出来たので僕は近藤さんの元へと戻った「近藤さん、僕が代わりに行ってきます。だから里中さんの住所教えてください」 **** それにしても里中さんの部屋のマンションを開けた時は本当に驚いた。まさか部屋の真ん中で倒れているなんて思いもしなかった。が看病しに来たことを話すと照れ臭そうにお礼を言ってきた。…多分彼となら千尋は幸せになれるだろうな。でもそう考えると胸の奥がチリリと痛む。 結局この日のクリスマスパーティーは中止になった。やっぱり里中さんに悪いからね。……大丈夫だよ。僕はいないけど来年もまたやれるんだか

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